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赤ちゃんが生まれたら神社へお宮参り。
結婚するときは、ウェディングドレスを着てチャペルへ。
家族が亡くなると、お寺の僧侶にお経を読んでもらう。
日本では、こうした組み合わせは珍しくありません。
でも、この話を外国の人にすると、
「その人は神道なの? キリスト教徒なの? それとも仏教徒なの?」
と驚かれることがあります。
さらに本人に宗教を聞くと、
「特にないです」
と答えることもあります。
神社にも行く。お寺にも行く。クリスマスも祝う。それでも自分には特定の宗教がないと言う。
なぜなのでしょうか。
日本人と宗教の関係を見ていくと、その理由が少しずつ見えてきます。

日本では「特定の宗教はない」という人が多い
まず、興味深い数字があります。
Pew Research Centerが2024年に実施した国際調査では、日本の成人の55%が特定の宗教に所属していないと回答しています。
また、「宗教が自分の人生で非常に重要」と答えた人は7%でした。
数字だけを見ると、日本人は宗教にあまり関心がないように思えるかもしれません。
ところが、実際の生活を見ると少し違います。
神社でお参りをする。
仏壇やお墓で先祖に手を合わせる。
お盆には墓参りをする。
お正月には初詣へ行く。
「宗教は特にありません」と答える人でも、こうした行事には自然に参加しています。

日本の「信者数」は人口より多い?
さらに不思議な数字があります。
文化庁の『宗教年鑑 令和7年版』によると、2024年12月末時点で、日本の宗教団体が報告した信者数の合計は1億7,505万4,047人です。
内訳は、神道系が約8,636万人、仏教系が約8,046万人、キリスト教系が約187万人など。
一方、2024年10月時点の日本の総人口は約1億2,380万人でした。
信者数の方が、人口より5,000万人以上も多いのです。
もちろん、日本人が一人でいくつもの宗教を熱心に信仰している、という意味ではありません。
「信者」の数え方は宗教団体によって違います。
ある人が地域の神社の氏子として数えられながら、家としては仏教寺院の檀家でもある、といったこともあります。
「特定の宗教には所属していない」と考える人が多いのに、宗教団体が数える信者数は人口を超える。
この少し不思議な数字にも、日本人と宗教との関係が表れています。
日本人は「どの宗教か」より「何の行事か」を大切にする
日本人の生活には、宗教に関係する行事がたくさんあります。
赤ちゃんが生まれれば、お宮参り。
子どもが成長すれば、七五三。
お正月には初詣。
お盆には墓参り。
でも、そのたびに、
「これは神道の行事」
「今日は仏教の行事」
と考えている人は、それほど多くありません。
「赤ちゃんが生まれたからお宮参りに行く」
「七五三の年だから神社へ行く」
「お正月だから初詣に行く」
という感覚の方が身近です。
初詣も、必ず神社へ行くわけではありません。
神社へ行く人もいれば、お寺へ行く人もいます。両方へ行く人もいます。
東京の浅草寺、千葉の成田山新勝寺、神奈川の川崎大師など、初詣で多くの人が訪れる有名なお寺もあります。
多くの人にとっては、「神道か仏教かを選ぶ」というより、「新しい年になったからお参りに行く」のです。

神社とお寺は、昔から別々だったわけではない
こうした感覚には、日本の宗教の歴史も関係しています。
日本では古くから、山や海、川、自然、地域などに「神」を感じ、祀ってきました。
そこへ6世紀ごろ、大陸から仏教が伝わってきます。
仏教が広まっても、それまでの神への信仰がなくなることはありませんでした。
むしろ、神と仏は次第に結びついていきます。
これを「神仏習合」といいます。
神社の中や近くにお寺があったり、反対にお寺の中で神が祀られたりしました。
神と仏を結びつけて考える思想も広がり、長い間、「神か仏か、どちらか一つを選ぶ」という関係ではなかったのです。
そのため、現在でも神社とお寺の区別が分かりにくい場所があります。
外国人旅行者だけでなく、日本人でも迷うことがあります。
この関係が大きく変わったのが明治時代です。
1868年以降、新政府は神道と仏教を分ける「神仏分離」を進めました。
その結果、各地で仏教を排除する動きが広がり、寺院の廃止や仏像の破壊などを伴う「廃仏毀釈」も起こりました。
これによって、長く続いてきた神と仏との関係も大きく変わっていきました。
鳥居や「稲荷」という名前から神社と思われがちな豊川稲荷ですが、実は仏教寺院です。日本では神道と仏教が長く影響し合ってきたことがよく分かる場所のひとつです。詳しくは【豊川稲荷は神社ではない?】寺院なのに鳥居がある理由と見どころで紹介しています。
赤ちゃんが生まれたら、なぜ神社へ行く?
子どもの誕生や成長に関する行事では、今でも神社がよく登場します。
代表的なのがお宮参りです。
赤ちゃんが生まれて約1か月後、家族で神社を訪れ、誕生を神に報告し、健やかな成長を願います。
その後、3歳、5歳、7歳ごろには七五三があります。
晴れ着を着た子どもと家族が神社を訪れる姿は、秋の日本ではよく見かけます。
お寺でお初まいりや七五三の祈祷を行うこともありますが、お宮参りや七五三は現在でも神社との結びつきが強い行事です。
そして、参加する家族が全員「私たちは神道の信者です」と考えているとは限りません。
家族にとっては、赤ちゃんの誕生や子どもの成長を祝う行事なのです。

子どもの成長を祝う七五三も、神社と深く結びついた日本の代表的な人生行事です。七五三とは?日本の子どもの成長を祝う11月の伝統行事で詳しく紹介しています。
なぜ結婚式ではチャペルを選ぶ?
神社でお宮参りをした子どもが、大人になり結婚する際、チャペルで挙式を挙げることがあります。
しかも、珍しいことではありません。
「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」の全国推計では、挙式を行ったカップルの46.9%がキリスト教式を選びました。
人前式は36.7%、神前式は15.2%、仏前式は0.4%です。
キリスト教式が最も多く選ばれています。
もちろん、日本にもキリスト教徒はいます。
しかし、日本でキリスト教式を選ぶ人すべてがキリスト教を信仰しているわけではありません。
ウェディングドレスを着たい。
バージンロードを歩きたい。
指輪を交換したい。
そうした結婚式のスタイルとして選ばれることも多いのです。

人生の終わりと仏教
一方、葬儀や先祖供養では仏教との関係が強くなります。
僧侶がお経を読み、参列者が焼香をする。
亡くなった後には、四十九日、一周忌、三回忌などの法要を行う家庭もあります。
こうした習慣には、江戸時代の制度も関係しています。
江戸幕府がキリスト教を禁じる中で、人々は寺院に所属し、キリスト教徒ではないことを証明するようになりました。
寺と家との関係が深まり、墓や葬儀、先祖供養も寺と強く結びついていきます。
現在では宗教儀式を行わない葬儀など選択肢も増えています。
それでも、自分を熱心な仏教徒だと思っていなかった人が、家族の習慣や菩提寺との関係から仏式で葬られることは珍しくありません。

信者でなくても、なぜ宗教儀式を受けられる?
ここで、もう一つ疑問が出てきます。
神道の信者ではない人が、なぜ神社でお宮参りをできるのでしょうか。
仏教徒だと意識していなかった人が、なぜ仏式の葬儀を行うのでしょうか。
キリスト教徒ではないカップルが、なぜキリスト教式で結婚できるのでしょうか。
神社では、お宮参りや七五三の祈祷を受けるために、あらかじめ神道へ入信する必要はありません。
希望する祈願を申し込み、祈祷を受けることができます。
仏教の場合は、宗派や寺院、家と菩提寺との関係によって違います。
本人が生前に仏教徒だと強く意識していなくても、家の宗派や菩提寺との関係から仏式葬儀を行う場合があります。
キリスト教式の結婚式は少し事情が違います。
日本のホテルや結婚式場にあるウェディング・チャペルは、宗教施設としての教会とは同じではありません。
そのため、キリスト教徒ではないカップルでもキリスト教式を選ぶことができます。
一方、本来のキリスト教会で行う結婚式では、宗派や教会によって条件が異なり、事前の相談や結婚講座が必要になる場合があります。
つまり、神社、寺、教会では事情は違いますが、「信者でなければ宗教に関係する儀礼に参加できない」と一律に決まっているわけではありません。
このことも、日本でさまざまな宗教に由来する行事が生活の中に定着している理由のひとつでしょう。

クリスマスもハロウィンも、日本では宗教色が薄い
海外から入ってきた行事にも、同じようなことが見られます。
代表的なのがクリスマスです。
12月になると街にはクリスマスツリーやイルミネーションが並びます。
家庭ではケーキを食べたり、子どもにプレゼントを渡したり、恋人同士で食事に出かけたりします。
ただ、日本でクリスマスを楽しむ人の多くがキリスト教徒というわけではありません。
また、海外のキリスト教徒の多い地域で見られるように、クリスマスだから教会の礼拝へ行く、という習慣も日本では一般的ではありません。
もちろん、日本のキリスト教徒がクリスマス礼拝に参加することはあります。
しかし、多くの日本人にとってクリスマスは、ケーキやプレゼント、イルミネーションを楽しむ季節のイベントです。
ハロウィンも似ています。
仮装をしたり、テーマパークへ行ったり、期間限定のお菓子を楽しんだりします。
宗教行事というより、秋のイベントとして定着しています。
日本の年末年始を見ると、この特徴がよく分かります。
12月25日まではクリスマス。
12月31日には寺で除夜の鐘。
年が明ければ、神社や寺へ初詣。
場合によっては両方に行く。
多くの人は、そのたびに宗教を選び直しているわけではありません。
クリスマス、大みそか、お正月。それぞれの季節の行事として楽しんでいます。

クリスマスやハロウィンは、海外では宗教や地域の伝統と深く結びついている一方、日本では季節のイベントとして独自の形で楽しまれています。海外との違いや、日本ならではの楽しみ方については、それぞれの記事で詳しく紹介しています。
日本人は「宗教に寛容」なのか?
こうした行動を見ると、
「日本人は宗教に寛容だから」
と説明したくなるかもしれません。
確かに、異なる宗教に由来する行事を取り入れることへの抵抗は比較的小さいといえるでしょう。
ただ、日本が昔からすべての宗教に寛容だったわけではありません。
江戸時代にはキリスト教が厳しく禁じられました。
明治初期には、神仏分離をきっかけに廃仏毀釈も起こっています。
そのため、「宗教に寛容」という一言だけでは説明できません。
神道や仏教に由来する行事を長く生活の中で受け継ぎ、近代以降にはキリスト教由来の結婚式やクリスマスなども取り入れてきた。
その結果、現在の日本では、違う宗教に由来する行事が一人の人生の中に普通に並んでいます。

まとめ
「日本人は無宗教です」
海外で日本について説明するとき、そう言われることがあります。
確かに、自分を特定の宗教の信者だと考えない日本人は多くいます。
しかし、それだけでは日本人と宗教との関係を十分に説明できません。
では、なぜ日本人は神社でお宮参りをし、チャペルで結婚し、お寺で葬式をするのでしょうか。
そこに一つだけの答えがあるわけではありません。
ただ、多くの日本人にとって大切なのは、その行事が神道なのか、仏教なのか、キリスト教なのかを選ぶことよりも、その時々の人生や季節の節目をきちんと迎えることです。
そう考えると、一見不思議に見える日本人の宗教との付き合い方も、少し理解しやすくなります。
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出典・参考資料
- Pew Research Center, “Religious Importance and Religious Affiliation”
https://www.pewresearch.org/religion/2025/05/06/religious-importance-and-religious-affiliation/ - 文化庁『宗教年鑑 令和7年版』
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/ - 総務省統計局『人口推計 2024年(令和6年)10月1日現在』
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/ - 株式会社リクルート『ゼクシィ結婚トレンド調査2024調べ』
https://zexy.net/article/app002508018



